1.過失相殺と過失割合
交通事故が発生した場合、事故による損害を加害者と被害者が公平に分担するため、加害者の被害者に対する損害賠償額を被害者の過失に応じて減額することになっています。
これを過失相殺といいます(民法722条2項)。
過失相殺は、不法行為の趣旨である損害の公平な分担という観点から、損害賠償実務において行われているものです。
交通事故において過失相殺を行うにあたっては、事故態様に応じて加害者と被害者それぞれの過失の割合を決定せねばなりません。
2.過失割合の決定
実務上、過失割合は、これまで長年にわたり実務家が蓄積してきた裁判例に基づく認定基準に基づいて決定されています。
実務で用いられていられている基準は、「東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』別冊判例タイムズ16号」です。
この基準をベースに、個別具体的な事故態様を加味して最終的な過失割合を決定します。
3.質問の事例の過失割合
(1)別冊判例タイムズ16号の認定基準による過失割合
①信号機無交差点、②直進車と対向右折車、の場合、別冊判例タイムズ16号中の【60】表によると、過失割合は、直進車が2割、右折車が8割となっています。
(2)過失割合決定時に勘案される事由
(1)の過失割合が決定される際に考慮されているのは次の点です。
車両等が交差点で右折する場合には、直進や左折をしようとする車両の進行を妨害してはならないと道路交通法37条に定められています。
そのため、右折車は直進車が通り過ぎるのを待たなければならず、右折車の優先度が低くなります。
一方、直進車にも、交差点内では、反対方向から進行してきて右折する車両に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行する義務が課されています(道路交通法36条4項)。
質問のケースでは、直進車も対向車を予め確認出来るので、対向車が右折してくる可能性を予測して運転する義務があるといえまず。
したがって、直進車だからといって、過失が無いわけではなく、2割の割合で過失があるというのが別冊判例タイムズ16号に従った考え方です。